健康のカギを握る「オメガ3脂肪酸」

私たちの体には、だいたい37兆個の細胞があると言われています。その細胞ひとつひとつは、「細胞膜」という「油の膜」で覆われています。オメガ3脂肪酸は、その細胞膜の材料に使われている、特別な油のひとつです。私たちの健康にとって、この「細胞膜の柔軟性」は非常に重要です。

たとえば、血液を全身に届ける血管の細胞膜にオメガ3脂肪酸が多いと、血管はしなやかに伸び縮みする事で、血流が良くなります。その血液中を流れる赤血球も細い血管を通る際にオメガ3脂肪酸のおかげで柔らかく折れ曲がることができるので、血液の流れがサラサラになります。そのため、オメガ3脂肪酸を多く摂っていると全身の細胞がしなやかになり、血液の流れが保たれるため、心臓病や脳梗塞などになりにくいと考えられます。また赤血球に含まれるオメガ3脂肪酸が多い人は、平均余命が5年長いことも最近の研究で明らかになりました。

さらに、注目すべきは私たちの脳です。オメガ3脂肪酸は、脳の神経細胞を作る材料にも使われており、神経細胞同士が柔軟につながり合い、高度な情報ネットワークを生み出すことを促しています。オメガ3脂肪酸が記憶力を向上させることも報告されています。

私たちの脳は、母親の胎内にいるころから、脳を形作る材料としてたくさんのオメガ3脂肪酸を必要としています。そのため、妊婦や授乳婦は、積極的にオメガ3脂肪酸を摂る必要があります。母乳にも、母親の体に蓄えられたオメガ3脂肪酸がたくさん含まれていることが分かっています。こうして人は、親から子へとオメガ3脂肪酸を受け継ぎ、命と知性を育み続けています。

もうひとつの重要な油「オメガ6脂肪酸」

「オメガ3脂肪酸」と同じように私たちの全身の細胞を覆う「細胞膜」の材料に使われている “もうひとつの重要な油” が存在します。それが「オメガ6脂肪酸」です。私たちが料理に使う大豆油やコーン油など、いわゆるサラダ油に多く含まれています。

オメガ6脂肪酸は、ウイルスや病原菌などから体を守る役割があります。病原体が血液中に侵入すると、オメガ6脂肪酸が、病原体をブロックする白血球に、「攻撃指令」を出す働きをすることが解ってきました。

オメガ6脂肪酸は、揚げ物などによく使うサラダ油の他に、鳥肉・豚肉・牛肉の油にも多く含まれている非常に身近な油です。ところが、このオメガ6脂肪酸が体の中で増えすぎると、白血球への攻撃指令が過剰になり、ついには白血球が、自分自身の体の細胞まで傷つけてしまうことがあります。

実は、そんなオメガ6脂肪酸による “攻撃指令” を抑えるのに役立つのが、オメガ3脂肪酸です。オメガ6脂肪酸の過剰な攻撃指令にブレーキをかけ、白血球の暴走を鎮める働きもしています。

アクセルを踏むオメガ6脂肪酸と、ブレーキをかけるオメガ3脂肪酸、この2つが常に良いバランスを保つことが、私たちの健康にとって重要です。もし体内で、この2つの脂肪酸の量的バランスが崩れてしまうと、心臓病の死亡リスクに繋がることが報告されています。

オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の割合が「1:1」から「1:2」までの間は、心臓病の死亡リスクは低いままですが、「1:2」の割合を超えてオメガ6のほうが多くなると、急速にリスクが高まっていくことも日本人を対象とした研究でわかっています。

ここで問題となるのが、私たちが日頃口にする油のほとんどに、オメガ6脂肪酸が多く含まれているということです。その結果、体の中でオメガ6脂肪酸が過剰な状態が続き、白血球が血管の細胞を攻撃、動脈硬化を進めてしまうリスクが高まってしまいます。

最近の調査で、とくに欧米型の食事が多い10~20代の日本人は、食事からとっているオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の割合が「1:10」くらいにまでなっていることが明らかになっています。オメガ6脂肪酸は人の体に欠かせない油ですが、現代社会において過剰なほどに摂取していることが報告されています。また、オメガ6脂肪酸からできる物質が脳に作用して『もっと食べたい』という欲求を高めることも分かっています。

長期的な健康を維持するためには、オメガ6脂肪酸を減らし、オメガ3脂肪酸を積極的に摂る必要があります。

オメガ3脂肪酸を積極的に取るためには?

オメガ3脂肪酸の 1 日の摂取基準量はだいたい 2g 前後とされています。オメガ3脂肪酸は、イワシ、サンマ,アジなどの青魚に多く含まれています。これらのお魚をたくさん食べれば良いのですが、毎日食べることが難しい人、お魚の臭いか気になる人や嫌いな人もいます。

より手軽に、オメガ3脂肪酸を摂れる食材として、エゴマや亜麻仁、チアシード、クルミがあります。少ない量で十分なオメガ3脂肪酸を摂る工夫として、エゴマ油がオススメです。

オメガ3脂肪酸を 2g 摂るためには、エゴマ油小さじ 1 杯で十分です。お魚が食べられないという時は、エゴマ油を小さじ 1 杯をサプリメントのように飲んだり、また、サラダにかけたり、飲み物に混ぜたりすると良いでしょう。野菜ジュースに混ぜることで、ニンジンなどに含まれるβ-カロチンや脂溶性ビタミンの吸収も良くなるメリットもあります。ただしエゴマ油は加熱によって過酸化脂質という体に有害な油に変化するので、生の状態で摂るようにして下さい。

参考資料

  • Cochrane Database Syst Rev. 2020;3(2):CD003177.
  • Am J Clin Nutr. 2021 Oct 4;114(4):1447-1454. doi: 10.1093/ajcn/nqab195.
  • 日本人の食事摂取基準(2020年版)
  • Circulation. 2011;124:A8169
  • 2020年1月12日の『NHKスペシャル 食の起源』
  • Vitamins (Japan). 2017 91 (9), 531-536.